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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)6875号 判決 1992年1月28日

原告 日本エス・アイ・シー株式会社

右代表者代表取締役 石井勉

右訴訟代理人弁護士 天野勝介

被告 株式会社兵庫銀行

右代表者代表取締役 山田實

右訴訟代理人弁護士 大塚明

主文

一  大阪地方裁判所平成三年(ヨ)第四一二号仮差押命令申立事件における仮差押決定正本に基づく別紙目録≪省略≫記載のゴルフ会員権に対する保全執行は、これを許さない。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

理由

一  請求の原因第1項の事実は当事者間に争いがない。

二  また、請求の原因第2項(一)の事実も当事者間に争いはなく、同項(二)(三)の事実は、成立に争いのない≪証拠省略≫、弁論の全趣旨により成立の認められる≪証拠省略≫と弁論の全趣旨により、これを認めることができる。

そこで、進んで、原告が本件会員権を取得したといえるかどうか、その取得を被告に対抗することができるかどうかについて判断する。まず、原本の存在及び成立につき争いのない≪証拠省略≫と弁論の全趣旨によると、本件会員権は、預託金会員制のゴルフクラブの会員権であることが認められるが、このような会員権は、預託金返還請求権及びゴルフ場施設の優先的利用権を中核とする権利と年会費の支払義務等からなる会員の契約上の地位である。そして、その地位は、ゴルフ場施設の利用を目的とする一種の継続的契約における地位であって、権利のみならず義務からなる法律関係である。しかし、≪証拠省略≫によると、本件会員権については、クラブ理事会の承認を得た場合にはこれを他に譲渡することができる旨定められているので、本件会員権をもって、その性質上、譲渡のできないものとすることはできない。そして、一般にゴルフ場施設が多くの会員の利用を目的とするものであって、個々の会員の個性は特に重要な意味を持たないことからすると、会員資格について特段の要件が付加されていることを認めるに足りる証拠のない本件においては、右理事会の承認は、ゴルフ場施設の利用上、不適格と認められるものを排除するために会員権の譲渡に理事会の承認を要することにしたものと解するのが相当である。そうすると、右の目的を達成するためには、理事会の承認のない会員権の譲渡は、ゴルフクラブ(ニチゴ)との関係で対抗することができない(無効)とすれば足り、譲渡の当事者間及び譲受人と対抗関係に立たない第三者との間においては、理事会の承認を得ていなくとも有効と解するのが相当である。したがって、原告は、ニチゴ以外の者(対抗関係に立つ第三者を除く。)との間では、本件会員権を有効に取得したものというべきである。

次に、本件のような預託金制会員権については入会契約において特段の合意がされていない限り、預託金の返還を受けた場合には会員としての地位を喪失するという意味で、預託金返還請求権と会員としての地位とは密接不可分の関係にあること、会員権の譲渡の通知は預託金返還請求権の譲渡の通知を含み、会員権の譲渡について確定日付のある通知がされたときは、譲受人は、預託金返還請求権の取得を第三者に対抗することができると解すべきであることからすると、本件のように預託金返還請求権を除外しないで会員権が譲渡されている場合には、会員権の譲渡について確定日付のある通知がされ、それによって会員権の譲受人が預託金返還請求権について対抗要件を具備したときには、会員権全部について対抗要件を具備したものとするのが相当である。そして、本件においては、原告は、被告の保全執行に先立ち本件会員権について確定日付ある譲渡通知を受けることにより、本件会員権の預託金返還請求権の取得について対抗要件を具備したことになるから、これによって、本件会員権の帰属に関して対抗関係に立つ被告に対し、本件会員権の取得を対抗することができるというべきである。

三  よって、原告の請求は理由があるから、これを認容する

(裁判官 岡久幸治)

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